2020年7月、2020年度の聞き書き活動実施に先立ち、私たちは作家の塩野米松さんによる「聞き書き手法に関するオンライン講義」を受講した。
塩野さんは、聞き書き活動を通じた文化や伝統的な技術の記録に精力的に取り組んでおり、聞き書きの第一人者として知られている。また、その活動の記録をまとめ、これまでに『聞き書き にっぽんの漁師』など複数の著書を出版されており、そのいずれもが高い評価を受けている。
<塩野米松さん>
今回の講義では、そんな塩野さんから聞き書きの意義や、その内容を一つの文章として形に残す上での注意点など、様々なことを教えていただいた。
まず、講義の中で塩野さんがおっしゃっていたことを含め、ここで改めて聞き書きについて説明しておこう。聞き書きとは、ある土地の方々にお話を伺い、それを文章という形で記録することで、その土地の文化や社会の様子を世代を超えて共有していく取り組みのことだ。特に、話し手の語った内容を文章にする際に、地の文や聞き手の言葉を入れずに、話し手のありのままの言葉のみで文章を作成するという点に特徴がある。
<実際の講義の様子>
また講義の後半では、聞き書き活動の中で話し手の方と接する上での心構えについても、塩野さんからお話があった。その中でも特に印象に残ったのが、塩野さんのおっしゃっていた「話し手の方に誠意を尽くす」ことの大切さだ。
zoomで行われた今回の講義の中に、そんな塩野さんのアドバイスの意味を実感するこんな場面があった。あじさいメンバーの一人が窓の前に座って参加しており、画面に窓からの光が入って顔が見えづらくなっていたのだ。私たちはほとんど気にも留めなかったそんな状況を見て、塩野さんは「後ろのカーテンをしめてください。もしこの講義のようにオンラインでインタビューをするのだったら、光が眩しかったり、顔がよく見えなかったりしたら相手は集中できませんよ」とおっしゃった。
学校の授業やサークル活動などでzoom上でのコミュニケーションに慣れていたにも関わらず、相手から自分の画面がどう見えているのかなど考えたこともなかった私は、この言葉を聞いてとても驚いた。しかし、そうした些細なことにまで気を配り誠意を持って取り組まなければ、話し手の方は私たち聞き手に心を開いてくれず、話し手の人生に迫っていくことはできないのだ。話し手の方に心を開いてもらい、信頼関係を築いていくことの大切さとそのためのアドバイスを、塩野さんは長い時間をかけて丁寧に伝えてくださった。
これまで多くの方に寄り添い、聞き書きを通してたくさんの人の人生に迫ってきた塩野さんがおっしゃるからこそ、こうしたアドバイスには底知れぬ重みと説得力があり、講義から半年以上がたつ現在でも私たちの心に深く残っている。
この講義が終わった後、塩野さんからいただいた数々のアドバイスを実際の活動に生かしていくために、私たちは話し合いを重ねた。塩野さんに指摘された相手からの画面の見え方への配慮などに加え、話し手の方の経歴やバックグラウンドについての確認作業などにも長い時間をかけて取り組んだ。塩野さんの講義で学んだことは、そのような形で私たちの聞き書き活動につながっているのだ。
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このように実際の聞き書き活動のための準備を進めていた私たちだが、実はもう一つ聞き書き活動に先立って受講したオンライン講義があった。それが、昨年9月に行われた「放射線に関する講義」だ。次回の記事ではこの放射線講義を取り上げ、そこで私たちが学んだことや感じたことを掲載していく。
【阿部翔太郎】
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