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【HearToプロジェクト】#20 第1章 “コオロギ”がもたらす持続可能性|国際協力を自分ごと化する

更新日:2022年12月23日


今回インタビューさせていただいたのは、株式会社エコロギー代表の葦苅晟矢さん。海外を拠点として、食用コオロギを利用した持続可能な食料生産を行う会社を運営している。彼は、大学生時代に飼っていたコオロギが、誰でも生産できる生物由来のサスティナブルな食糧であることに気が付き、会社を設立。カンボジア農家の方々にコオロギを生産してもらい、開発した技術で食用にしている。

現在、SDGsやサスティナブルが社会のキーワードとなっている中、未来の国際協力の形はそれだけではないとおっしゃっていた。第一章では、株式会社エコロギーとは何か、葦苅さんがどんな方なのか、インタビューを通して分かった深い視点から紹介していこうと思う。


株式会社エコロギーについて


ーーカンボジアの農家の方々から買い取るコオロギの価格はどのように決定しているのでしょうか?


「1キロ何円という重量単価で買い取っています。私たちは、この餌を使ってくださいと伝えているので、その餌を使って育てたコオロギを、生産者から正しく全量買い取るということをやっています」


「正当に頑張っている人は正しく評価したいと思っています。農家さんと一緒に事業を作っていこう、という精神のもと、農家さんの生活の持続性に関われるように取り組ませてもらっています」



ーー正しい方法でやっている農家さんに対して正当な評価をするために、農家さんの活動を見に行かれることもあるのでしょうか?


「はい。定期的に農家さんを訪ね、モニタリング評価もしていますし、私たちと農家さんのネットワークも作っています。農家さんにも大中小があり、農家さんのリーダー的存在も養成しているんですね。なので形としては、私たちの会社があり、その下にリーダーがいて、次にコミュニティマネージャーの方がいて、さらに農家さんがいるという構成で、様々な活動や交流をさせていただいております」



ーー今後やりたいことを教えていただけますでしょうか?


「農家さんの生活向上が少しずつ目に見えてきたかな、とは感じています。ですが、お金を得た後の活用の仕方が構築されておらず、教育などに投資していきたいと考えています。稼いだ分のお金を教育に投資できるのか、というところはこれから見ていきたいテーマですね。そのような取り組みをJICAなどでも話していて、カンボジアのコオロギ農家さんに教育機会を提供するというところまでやっていきたいな、と思っています。」



ーー運営をしている中で、これは印象に残っているなという出来事はありますでしょうか?


「我々、エコロギーは、ネットベンチャーではなく、泥臭いリアル事業なんです。コオロギを作り、それを国境を越えて運ぶという形をとっているので、事業の中でフィールドを作ることが大事になります。エコロギーは、そのフィールドが確立しているため、創業前から応援していただいている皆様を現場にお呼びして、一緒に活動することもあります。

コロナウイルスが流行する以前の2019年には、エコロギーを創業前から応援してくださっている方や株主の皆様をカンボジアにお呼びして、地元の農家さんと食事をする機会を作りました。このような思い出は、特に印象に残っていますね。」


ーー 誰でもどこでもというモットーに対して、誰もが参入しやすい分、競合の参入障壁も低く、ビジネスを維持するのは難しいと思うのですが、その点で工夫されていることなどはございますでしょうか?


「おっしゃるとおり、参入障壁は高くないと思っています。そのため(他社との)差別化には3つの要素を持っています。

1つ目は、『真似したくても真似できない事業』。つまり、技術的な優位性があるかどうかです。その点、私たちはコオロギの加水分解なども行っていて、技術的な優位性を所々作っています。

そして、2つ目は、『真似したら損だと思わせる事業』。つまり、先行優位性というところですね。今から参入してもすでにやってる人がいるから、真似したら損だなと思わせる事業、ということです。私たちはコロナ前からカンボジアに進出して、フィールドを作っているので、他の企業に対しては、先行優位性を持てていると思います。

最後、3つ目が『そもそも真似をしたくない事業』。日本から遠く離れたカンボジアで、コオロギの食用事業行う、といった真似をしたくないと思わせる要素を含めることも、参入障壁につながっていると思います」



ーーSDGsに関するビジネスモデルは、お金にしにくい産業だというイメージがあります。ですが、その中で、会社の社長として、社員を養いつつ、自分の将来に対する投資も用意しないといけない。葦苅さんは、資金面についてどうお考えか教えていただきたいです。


「そうですね、SDGsとか言いながら社員の雇用を守れなかったら全然サステナブルじゃないので、一定規模のきちんとした経済的価値を生み出して成長していくっていうことは正しく追い求めていきたいと思ってます」


「ただこれは経営者としての個人の葛藤で、一つ大規模な急激な成長を繰り返すと、別の社会課題を生む可能性もあると思っています。

そのため、次に産むべき価値は、SDGsの取り組みの価値をきちんと会社の価値に落とし込んでいくところです。経済的や表面的な価値だけでIPO(1)させるのではなく、社会的なインパクトをいかに会社の評価額に繋げられるか、それが定量化できるか、と言うところは個人的に注目していますね。

自分の会社もそれができる場所にしていきたいと思いますし、このような取り組みを行なっている仲間が周りにはいるので、SDGsの取り組みを深掘りすることで、より良い社会になるのではないかな、と思います」(1)企業が資金調達や知名度の向上などを目的として新規に株式を上場し、不特定多数の投資家に発行株式を公開すること



ーー株式会社エコロギーでの活動を行う上で、ゴールと目的地点を教えていただきたいです。


「地球環境にとっても、そして私たちの社会にとっても、持続可能な食料生産の形を作っていくことが大きなゴールになっています。これを達成するにあたって、昆虫コオロギという未利用を、活用していくことに取り組んで行きたいなと思っております」

 

葦苅さんご自身について


ーー活動の中のモチベーションなどを教えていただけますでしょうか。


「そうですね。コロナ禍なのでなかなか難しいですけど、人との繋がりというところですね。そういう私たちの活動に共感してくれて、応援いただける、そういったところはですね、モチベーションになってますし、そういった人との関わり・繋がりによって、新しくできることが増えていくんですよね」



ーー自分の活動が誰かに届いたことや、人を動かすきっかけになった、と実感された経験がありましたら教えていただけますでしょうか?


「そうですね。あの僕、普段カンボジアにいるんですけど、たまに日本にも帰ってきていて、そのときに、このエコロギーっていう会社では、やっぱり葦苅がいなかったら、このエコロギーに参画しなかったという声をいただけると、身の回りの人をうまく巻き込めたなっていうのは実感もあります。あとですね、僕もともと一人でこの会社作ったんですけどCOOの人間がいて、彼はもともとコオロギが大嫌いなんですね。昆虫大嫌いなんですけど、葦苅っていう人間が面白いと思ってくれて、会社の二人目の仲間がCOOになってくれたんですね。そういったところがすごく感じるポイントになったりするかなと思います。でも常にある意味、社会の皆さんに変な意味で面白いなって思ってもらえるような人間でありたいなと思ったりもしてます」



ーー文系から理系に変わったということですが、文系から理系になって変わった価値観だったり、特に今の事業に繋がった価値観について教えていただきたいです。


「くくりとしては、まあ文系から理系という感じなんですけど、なんか今はもう文系とか理系とかってもはや境界線なくなりつつあるのかなと思ってます。で、まあ一つ、得られたものっていうのはやっぱり『問いを見つけてくる』ってところで。問いを見つけて、実際その技術開発をして、社会実践をしていく。私が当時学生時代だった時、2015年とかですね。学生起業でなにするかって、もう、アプリ作って、メディア作って、売却します!とかいうのが多かったんですよね。ただ、そうじゃなくて、こういうテクノロジーを使って研究成果をもとに、ディープテックを使って、社会課題を解決するという方がかっこいいじゃないですか。と、僕は個人的に思いまして、そういった価値観がすごく変わったというところはありますかね」



ーー活動の中で、葦苅さんご自身がこれだけは譲れない、と考えていることはございますか。


「関係構築で行くと本当にウェットですよ、一緒にお酒を飲んだり、コミュニケーションをとったりすることです。たくさんの農家さんといっしょに。でもこれは本当にすごい大事で、酒飲んで仲良くなってちゃんと作ってくれたコオロギを買い取る。その繰り返しですね。泥臭い関係性構築ってやっぱり信頼関係構築につながるんじゃないかなと思っています」



ーー10年後の国際協力のカタチはどうなっているとお考えですか?


「SDGsに沿って国際協力は進むと思っています。ただ、SDGsにフォーカスし過ぎると、かえって国際協力関係を壊すようなこともあります。途上国の持続的な支援、環境問題の解決、貧困問題の解決と掲げながら、実はこの活動自体がサステナブルではない、ということもあります。10年後の国際協力のカタチを考えるとSDGsのような社会からの要請ではなく、もっと自分ごととしての国際協力のカタチが進むと思っています。社会のためには勿論ですが、自分のための社会参加、国際協力への参加をすることで、自分の日常に小さな喜びや誇りを覚えるような活動が増えていくと思っています」


SDGs、サスティナブルといった社会で強く述べられるキーワードについて、どこか嫌悪感を覚える方もいるかもしれない。そんなワードに抑圧されて国際社会から求められる取り組みをしていくのではなく、より自分事として社会参加、国際協力をしていくことが必要だという葦苅さんの考えに賛同できる方も多いだろう。第二章では、葦苅さんが着目した「コオロギ」のポテンシャル、「コオロギ食品」について紹介していく。

 

【インタビュイー:葦苅晟矢さん】


海外を拠点として食用コオロギを利用した持続可能な食料生産を行う、株式会社エコロギーの代表として活躍中。フードロスを活用してコオロギを育て、ヒトに限らない全ての生命の健やかな生活をサポートする。


株式会社エコロギーHP:https://ecologgie.com/

葦苅晟矢さんtwitter:@ashikari_seiya




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